大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和60年(レ)358号 判決

控訴人 神戸光男

右訴訟代理人弁護士 中村喜三郎

被控訴人 株式会社 武甲

右代表者代表取締役 伊藤吉雄

右訴訟代理人弁護士 有賀功

主文

一、本件控訴を棄却する。

二、控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一、当事者の求めた裁判

一、控訴の趣旨

1. 原判決中控訴人に関する部分を取り消す。

2. 被控訴人の控訴人に対する請求を棄却する。

3. 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二、控訴の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二、当事者の主張

一、請求原因

1. (被控訴人の地位)

被控訴人は、不動産の賃貸等を業とする会社である。

2. (本件賃貸借契約)

(一)  東伸土地株式会社(以下「東伸土地」という。)は、原審被告三木理恵(以下「原審被告三木」という。)に対し、昭和五五年一一月一八日、東伸土地所有の別紙目録記載の建物部分(以下「本件建物部分」という。)を、期間は同年一二月一九日から昭和五七年一二月一八日までの二年間、賃料は月額五万三〇〇〇円として毎月末日限り翌月分を支払うこととの約定で賃貸し、その頃、これを引き渡した(以下「本件賃貸借契約」という。)。

(二)  被控訴人は、昭和五七年一月一四日、本件建物部分を競売により取得(同日所有権移転登記を経由)するとともに、本件賃貸借契約上の賃貸人の地位を承継した。

3. (更新と賃料増額改訂)

本件賃貸借契約は、その後昭和五七年一二月一八日の経過とともに法定更新された。右更新の際、賃料については月額五万八〇〇〇円に増額改訂された。

4. (原審被告三木の賃料の不払)

原審被告三木は、昭和五九年八月分から同年一二月二〇日分までの賃料合計二六万九四一九円(一二月分は日割計算)を支払わないままで、同年一二月二〇日、本件建物部分から退去した。

5. (未払賃料の催告と不払)

そこで、被控訴人は、原審被告三木に対し、右未払賃料合計額から被控訴人が受領した敷金の一部である五万五〇〇〇円を差し引いた残額二一万四四一九円を支払うべきことを再三催告したが、原審被告三木はこれを支払わない。

6. (控訴人の連帯保証)

控訴人は、東伸土地に対し、昭和五五年一一月一八日、原審被告三木が本件賃貸借契約上賃貸人に対して負うべき一切の債務について連帯保証した(以下「本件連帯保証契約」という。)。

7. よって、被控訴人は、控訴人に対し、連帯保証契約に基づき、右5の未払賃料残額二一万四四一九円及びこれに対する弁済期の経過後である昭和五九年一二月二一日から完済に至るまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二、請求原因に対する認否

1. 請求原因1、2及び4ないし6の各事実は認める。

2. 同3のうち、前段の事実は認めるが、後段の事実は知らない。

三、控訴人の主張(建物賃貸借契約の期間満了による連帯保証債務の消滅)

1. 建物賃貸借契約が法定更新された場合、更新前の賃貸借契約についてなされた保証契約は、保証人において右賃貸借契約の更新後も継続して保証責任を負う旨の特段の意思表示をしない限り、民法六一九条二項により賃貸借契約の期間満了と同時に終了する。

2. 従って、本件連帯保証契約は、本件賃貸借契約の期間満了時である昭和五七年一二月一八日の経過とともに終了した筋合であって、右経過時以降に生じた原審被告三木の債務について連帯保証債務の履行を求める被控訴人の控訴人に対する本訴請求は失当である。

四、右主張に対する被控訴人の答弁

1. 借家法の適用のある建物賃貸借契約が法定更新された場合は、保証人の責任も当然に更新後の賃貸借契約について存続するものであるから、控訴人の主張は理由がない。

2. 仮に控訴人の前記法律的主張が認められるとすれば、予備的に請求原因において次のとおり付加主張する。

(連帯保証債務の承認)

控訴人は、いずれも被控訴人の従業員嶋長廣己に対し、昭和五八年九月頃、原審被告三木の同年三月分ないし九月分の延滞賃料について、昭和六〇年一月一八日、本件の未払賃料について、それぞれ控訴人において連帯保証債務を負うべきことを承認した。

五、右主張に対する控訴人の認否

主張事実は否認する。

第三、証拠〈省略〉

理由

一、請求原因1、2及び4ないし6の各事実(順次に、被控訴人の地位、本件賃貸借契約、原審被告三木の賃料の不払、未払賃料の催告と不払、控訴人の連帯保証)はいずれも当事者間に争いがなく、同3(更新と賃料増額改訂)のうち、本件賃貸借契約が、その後昭和五七年一二月一八日の経過とともに法定更新されたことは当事者間に争いがなく、右更新の際、賃料については月額五万八〇〇〇円に増額改訂されたことは、いずれも成立に争いのない甲第四ないし第六号証、原審証人嶋長廣己の証言により真正に成立したものと認められる甲第二号証によってこれを肯認し得、この認定に反する証拠はない。

二、そこで控訴人の主張(建物賃貸借契約の期間満了による連帯保証債務の消滅)について判断する。

所論は、要するに、民法六一九条二項は敷金以外の担保は更新の際に消滅する旨規定しているのであるから、いわゆる法定更新(借家法二条)された本件賃貸借契約に随伴締約された本件連帯保証契約は、保証人において、更新後も継続して保証責任を負う旨の特段の意思表示をしない限り、本件賃貸借契約の期間満了と同時に終了するものと解すべく、右特段の意思表示のない本件にあっては控訴人は法定更新後の賃借人の債務については責任を負わないというにある。

なるほど、本件にあっては、本件賃貸借契約が昭和五七年一二月一八日の経過とともに法定更新(借家法二条)されたこと及び前記特段の意思表示がないことがいずれも明らかであり、また、所論援用の民法六一九条二項は、「前賃貸借ニ付キ当事者カ担保ヲ供シタルトキハ其担保ハ期間ノ満了ニ因リテ消滅ス但敷金ハ此限ニ在ラス」との規定であって、講学上、前賃貸借と同一の条件を以て更に賃貸借をなしたものと推定されるいわゆる黙示の更新(民法六一九条一項)の場合には、敷金を除いて、一般の担保は、それが物的担保であろうと人的担保であろうと、前賃貸借の終了とともに消滅するとひろく解釈されていること、賃貸借契約における賃借人の債務についての保証はいわゆる継続的保証の一種であって、一般に継続的保証においては、保証契約自体には期間の定めがなくても、保証の対象となる主債務の法律(取引)関係について期間の定めがあれば、該期間内に生じた債務についてのみ保証人は責任を負うべく、また、保証契約締結後、主債務者と債権者との間で右法律(取引)関係の期間を延長した場合にも保証人の任責期間についてまで延長されることはないのが原則であることからすれば、民法六一九条二項の趣旨により、建物賃貸借について第三者のなした保証も建物賃貸借契約の期間満了により終了すると解することも一つの見解といえよう。

しかしながら、保証の対象となる主債務の法律(取引)関係が継続的双務契約であって、かつ、期間の定めがあったとしても、同時に当初から更新が約されている場合については、保証人の責任は、更新後に及ばない旨を明示する等の特段の事情のない限り、更新後に生じた債務にも及ぶものと解するのが相当である(ちなみに、右不及責の特段の事情の存在については、保証人側に主張立証責任を分配すべきである。)。けだし、かかる継続的双務契約関係においては、保証人も主債務の法律(取引)関係が更新、継続されることを明示的もしくは黙示的に承諾しているのが通例であって、保証関係を含めた一定の条件のもとで右契約関係をできるだけ継続しもって利益を享受しようと期する関係当事者の効果意思にも合致し、衡平の見地に適い、法律関係の安定にも資するからである。ところで、借家法の適用のある建物賃貸借にあっては期間の定めのある場合においても、賃貸人において正当の事由を具備して六か月ないし一年内に更新拒絶の通知をしない限り、期間が満了しても契約は更新したものとみなされ(借家法一条の二、二条)、賃借人が契約の継続を希望する限り更新、継続されるのが原則であるから客観的には、建物賃借人は、締約時において、既に期間が満了しても当然に更新されることを前提とするものであって、這般の法律(取引)関係は、更新の特約の付されているのに等しいものというべく、かかる賃貸借契約の保証は、保証契約自体において更新後は保証責任を負わない旨の特別の合意をなす等特段の事情がある場合を除き、更新後に生じた債務にも及ぶものと当裁判所は解する。

しかるに、本件においては、右特段の事情につき何らの主張もなされておらず、また、原審にあらわれた全証拠によってもこれを認めることができないから、本件連帯保証契約が本件賃貸借契約の期間満了と同時に終了したものということはできず、控訴人の主張は理由がないものといわなければならない。

したがって、その余の点について判断するまでもなく、控訴人の主張は失当である。

三、結論

以上によれば、第一審判決は相当であるから民事訴訟法三八四条によりこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき同法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 薦田茂正 裁判官 大橋弘 杉原麗)

〈以下省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例